相続には、大きく分けて2種類あります。すなわち、➊遺言がないときの相続と、➋遺言があるときの相続です。
この記事では、➊遺言がないときの相続において、通常とは異なる順序で相続が発生した場合について解説しています。
➋遺言があるときの相続については、記事「受遺者(財産をもらう方)が遺言者よりも先に死亡したとき又は同時に死亡したときの遺言・遺贈の解釈」をご参照ください。
もくじ | |
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子が親より先に亡くなることは、少なくありません。
それでも一般的には、亡くなる順番で多いのは、親→子の順です。
この順序が逆転した場合、どうなるでしょうか?
相続は、被相続人の死亡によって開始します(民882)。
民法第882条(相続開始の原因) | |
相続は、死亡によって開始する。 |
相続開始によって権利義務を承継するためには、相続開始時(=被相続人の死亡時)に相続人が存在していなければなりません。これを「相続における同時存在の原則」といいます。
同時存在の原則は、民法887条に表れています。
民法第887条(子及びその代襲者等の相続権) | |
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したがって、子が親より先に死亡していた場合、子は親の財産を相続することができません。
その代わり、子に子がいる(親から見て孫がいる)場合には、孫は、子を代襲して親の相続人(代襲相続人)となります(民887Ⅱ)。
この「相続における同時存在の原則」の例外が、胎児です。
胎児は、相続開始と同時には存在していないにも関わらず、また、民法3条1項が「私権の享有は、出生に始まる」と定めているにも関わらず、民法886条1項によって「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。すなわち、胎児は、相続については例外として「存在している」とみなされます。
民法第3条(権利能力) | |
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民法第886条(相続に関する胎児の権利能力) | |
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もっとも皆様は、こんな難解なことを理解する必要はありません。
相続において、一般的に覚えておいていただきたい法定相続人は、次のとおりです。
常に相続人 | 被相続人の配偶者(民890) | 第1順位 | 被相続人の子(民887) | |
第2順位 | 被相続人の直系尊属(民889Ⅰ①) | |||
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹(民889Ⅰ②) |
この記事で、まだ引用していなかった条文を下に挙げておきます。
民法第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権) | |
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民法第890条(配偶者の相続権) | |
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。 |
ここでもう一度、民法887条を見てみましょう。
太字にした「以前」という言葉に注目してください。
民法第887条(子及びその代襲者等の相続権) | |
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法律用語においては「以前」と「前」は、厳格に区別して使用されます。
したがって、民法887条2項及び3項の「相続の開始以前に死亡し」は、同時に死亡した場合を含みます。
ここまでをまとめると、次のとおりです。
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具体例で見てみましょう。
【子がいるとき】
┌──┐ ┌──┐
妻 妻=╦=夫 夫
の 夫 の
兄 妻 妹
の
子
死亡日時 | 相続人 |
夫:2025.4.1_00:00 妻:2025.4.1_00:01 |
夫の相続:妻と子 妻の相続:子 (夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。) |
妻:2025.4.1_00:00 夫:2025.4.1_00:01 |
妻の相続:夫と子 夫の相続:子 (夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。) |
夫妻が同時に死亡 夫:2025.4.1_00:00 妻:2025.4.1_00:00 |
夫の相続:夫妻の子 妻の相続:夫妻の子 (夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。) |
夫妻に子がいるときは、最終的には子が相続することになるので、あまり問題にならなさそうです。
【子がいないとき】
┌──┐ ┌──┐
妻 妻=╦=夫 夫
の 子 の
兄 な 妹
し
ご夫妻のそれぞれの相続開始時の財産は、次のとおりだったとします。
夫:1000、妻:0
死亡時刻 | 相続人 |
夫:2025.4.1_00:00
妻:2025.4.1_00:01 |
夫の相続:妻750と、夫の妹250 妻の相続:妻の兄750 |
妻:2025.4.1_00:00 夫:2025.4.1_00:01 |
妻の相続:夫0と、妻の兄0 夫の相続:夫の妹1000 |
夫妻が同時に死亡
夫:2025.4.1_00:00 妻:2025.4.1_00:00 |
夫の相続:夫の妹1000(妻の兄は、相続人とはならない。) 妻の相続:妻の兄0(夫の妹は、相続人とはならない。) |
子がいないときには、ご夫妻の死亡時間が1分先後するだけでも、
死亡時刻が1分異なるだけでも、これだけの差が生じます。
戸籍謄本に、死亡日だけではなく、死亡時刻まで記載されているのは、このためです。
死亡時刻が1分前後するだけでも、各相続人が取得する相続分は大きく異なります。
大きな事故なので、その先後が分からないときには、同時に死亡したものと「推定する」こととなっています。
民法第32条の2(同時死亡の推定) | |
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。 |
「推定する」と同様、法律の文末に用いられるものに「みなす(看做す)」があります。
「推定する」と「みなす」は、意味が全く異なります。
同時死亡はあくまで「推定」ですので、同時死亡を覆す証拠がでてきたときには、同時死亡の推定は効力を失い、証拠が示す死亡順序にしたがって相続されることとなります。