子が親より(妻が夫より)①先に死亡したとき、②同時に死亡したとき、③死亡の先後が分からないときの相続(同時存在の原則、同時死亡の推定)


相続には、大きく分けて2種類あります。すなわち、➊遺言がないときの相続と、➋遺言があるときの相続です。

この記事では、➊遺言がないときの相続において、通常とは異なる順序で相続が発生した場合について解説しています。

➋遺言があるときの相続については、記事「受遺者(財産をもらう方)が遺言者よりも先に死亡したとき又は同時に死亡したときの遺言・遺贈の解釈」をご参照ください。

もくじ
  1. 子が親より先に死亡したときの相続
    1. 相続における「同時存在の原則」
    2. 相続における「同時存在の原則」の例外
    3. 法定相続人
  2. 子が親と同時に死亡したときの相続
    1. 同時死亡
    2. 具体例
  3. 死亡の先後(前後)が分からないときの相続
    1. 同時死亡の推定
    2. 「推定する」の意味

子が親より先に死亡したときの【相続】


子が親より先に亡くなることは、少なくありません。

それでも一般的には、亡くなる順番で多いのは、親→子の順です。

この順序が逆転した場合、どうなるでしょうか?

 

相続は、被相続人の死亡によって開始します(民882)。

民法第882条(相続開始の原因)
 

相続は、死亡によって開始する。

相続における「同時存在の原則」

相続開始によって権利義務を承継するためには、相続開始時(=被相続人の死亡時)に相続人が存在していなければなりません。これを「相続における同時存在の原則」といいます。

同時存在の原則は、民法887条に表れています。

民法第887条(子及びその代襲者等の相続権)
 
  1. 被相続人の子は、相続人となる。
  2. 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条(筆者注:欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
  3. 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条(筆者注:欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

したがって、子が親より先に死亡していた場合、子は親の財産を相続することができません。

その代わり、子に子がいる(親から見て孫がいる)場合には、孫は、子を代襲して親の相続人(代襲相続人)となります(民887Ⅱ)。

相続における「同時存在の原則」の例外

この「相続における同時存在の原則」の例外が、胎児です。

胎児は、相続開始と同時には存在していないにも関わらず、また、民法3条1項が「私権の享有は、出生に始まる」と定めているにも関わらず、民法886条1項によって「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。すなわち、胎児は、相続については例外として「存在している」とみなされます。

民法第3条(権利能力)
 
  1. 私権の享有は、出生に始まる。
  2. (略)
民法第886条(相続に関する胎児の権利能力)
 
  1. 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
  2. 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。 

法定相続人

もっとも皆様は、こんな難解なことを理解する必要はありません。

相続において、一般的に覚えておいていただきたい法定相続人は、次のとおりです。

常に相続人 被相続人の配偶者(民890)   第1順位 被相続人の子(民887)
  第2順位 被相続人の直系尊属(民889Ⅰ①)
  第3順位 被相続人の兄弟姉妹(民889Ⅰ②)

この記事で、まだ引用していなかった条文を下に挙げておきます。

民法第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
 
  1. 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

    一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

    二 被相続人の兄弟姉妹

  2.  

    第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

民法第890条(配偶者の相続権)
  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

子と親が同時に死亡したときの【相続】


同時死亡

ここでもう一度、民法887条を見てみましょう。

太字にした「以前」という言葉に注目してください。

民法第887条(子及びその代襲者等の相続権)
 
  1. 被相続人の子は、相続人となる。
  2. 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条(筆者注:欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
  3. 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条(筆者注:欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

法律用語においては「以前」と「前」は、厳格に区別して使用されます。

  • 以前:基準時点を含む。例えば「4月1日以前」という場合には、4月1日を含んで、それより前を意味します。
  • 前:基準時点を含まず、基準点より前を表わします。

したがって、民法887条2項及び3項の「相続の開始以前に死亡し」は、同時に死亡した場合を含みます。

ここまでをまとめると、次のとおりです。

  1. 同時死亡の場合、相互に相続は開始しない。
  2. 同時死亡は、代襲相続原因となる。

具体例

具体例で見てみましょう。

【子がいるとき】

┌──┐   ┌──┐

妻  妻=╦=夫  夫

の    夫    の

兄    妻    妹

     の

     子

死亡日時 相続人

夫:2025.4.1_00:00

妻:2025.4.1_00:01

夫の相続:妻と子

妻の相続:子

(夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。)

妻:2025.4.1_00:00

夫:2025.4.1_00:01

妻の相続:夫と子

夫の相続:子

(夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。)

夫妻が同時に死亡

夫:2025.4.1_00:00

妻:2025.4.1_00:00

夫の相続:夫妻の子

妻の相続:夫妻の子

(夫の妹も、妻の兄も相続人とはならない。)

夫妻に子がいるときは、最終的には子が相続することになるので、あまり問題にならなさそうです。

 

【子がいないとき】

┌──┐   ┌──┐

妻  妻=╦=夫  夫

の    子    の

兄    な    妹

     し

 

ご夫妻のそれぞれの相続開始時の財産は、次のとおりだったとします。

夫:1000、妻:0

死亡時刻 相続人
夫:2025.4.1_00:00

妻:2025.4.1_00:01

夫の相続:妻750と、夫の妹250

妻の相続:妻の兄750

妻:2025.4.1_00:00

夫:2025.4.1_00:01

妻の相続:夫0と、妻の兄0

夫の相続:夫の妹1000

夫妻が同時に死亡

夫:2025.4.1_00:00

妻:2025.4.1_00:00

夫の相続:夫の妹1000(妻の兄は、相続人とはならない。)

妻の相続:妻の兄0(夫の妹は、相続人とはならない。)

子がいないときには、ご夫妻の死亡時間が1分先後するだけでも、

  • 妻の兄が相続する財産は、750のときもあれば、0のときもあります。
  • 夫の妹が相続する財産は、250のときだけもあれば、1000のときもあります。

死亡時刻が1分異なるだけでも、これだけの差が生じます。

戸籍謄本に、死亡日だけではなく、死亡時刻まで記載されているのは、このためです。

死亡の先後(前後)が分からないときの【相続】


同時死亡の推定

死亡時刻が1分前後するだけでも、各相続人が取得する相続分は大きく異なります。

大きな事故なので、その先後が分からないときには、同時に死亡したものと「推定する」こととなっています。

民法第32条の2(同時死亡の推定)
  数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

「推定する」の意味

「推定する」と同様、法律の文末に用いられるものに「みなす(看做す)」があります。

「推定する」と「みなす」は、意味が全く異なります。

  • 推定する:分からないから、取り敢えずそういうことにしておく。ただし、推定された事実をひっくり返す証拠が出てきたときには、「推定」はひっくり返ります。
  • みなす:分からないけれど、そういうことにする。反証があっても、みなされた事実は、ひっくり返りません。

同時死亡はあくまで「推定」ですので、同時死亡を覆す証拠がでてきたときには、同時死亡の推定は効力を失い、証拠が示す死亡順序にしたがって相続されることとなります。