相続放棄と数次相続・代襲相続


簡単なようで難しい相続放棄。

相続放棄に数次相続や代襲相続が関係すると、もう複雑すぎて考えたくありません。

そんなときに、ご参照ください。

もくじ
  1. 数次相続と代襲相続の違い(前提知識)
  2. 数次相続の場合の相続放棄
  3. 代襲相続の場合の相続放棄
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数次相続と代襲相続の違い(前提知識)


〔事例〕

祖父Aー父Bー子C

という関係において・・・

数次相続とは?!

祖父Aが死亡後、遺産分割をしないうちに父Bが死亡した場合、Cは祖父Aの相続権を有します。

祖父A ーーーーーー 父B ーーーーー 子C
➊死亡     ➋死亡    

これを数次相続といいます。

代襲相続とは?!

祖父Aよりも先に父Bが死亡した場合、Cは祖父Aの相続権を有します。

祖父A ーーーーーー 父B ーーーーー 子C
  ➋死亡    ➊死亡    

これを代襲相続といいます(民887Ⅱ)。

数次相続の場合の相続放棄


数次相続、すなわち下図の場合

祖父A ーーーーーー 父B ーーーーー 子C
➊死亡     ➋祖父の相続を承認放棄せず、死亡  

子Cは、A、Bの相続をそれぞれどうするか選択権を二つ持つことになり、A、Bそれぞれについて相続(単純承認)するか、相続放棄するか選択できます(最高裁昭和63年6月21判決【1】)。

 

ただし、Bの相続放棄を先に行ったときは、Aの相続について承認・放棄を決定できなくなります。相続放棄をした場合、初めから相続人ではなかったとみなされる(民939)ため、Cが父Bの相続を放棄した時点で父Bの相続人ではなくなるため、祖父Cの相続についても承認または放棄をする地位を失うからです。<下表⑷⑻のケース>

 

また、CがAを相続放棄した後に、Bを相続放棄したからといって、Aについて行った相続放棄の効果が失われる訳でもありません(最高裁昭和63年6月21判決【1】)。<下表⑺のケース>

 

まとめると次表のとおりです。

Cの選択肢

(いずれも死亡はA→Bの順とする)

許容されるか?!
ABとも承認 ⑴ A承認、次にB承認 OK
⑵ B承認、次にA承認(⑴の順序が逆) OK
⑶ A承認、同時にB承認 OK

A承認

B放棄

⑷ A承認、次にB放棄

OKかNGか、見解が分かれている【1】

⑸ B放棄、次にA承認(⑷の順序が逆) B放棄はできるが、A承認はNG
⑹ A承認、同時にB放棄 OKかNGか、見解が分かれている【1】

A放棄

B承認

⑺ A放棄、次にB承認 OK【2】
⑻ B承認、次にA放棄(⑺の順序が逆) OK【2】
⑼ A放棄、同時にB承認 OK【2】
ABとも放棄 ⑽ A放棄、次にB放棄 OK(最高裁昭和63年6月21判決【3】)
⑾ B放棄、次にA放棄(⑽の順序が逆)

B放棄はできるが、A放棄はNG

(A放棄する必要がない)

⑿ A放棄、同時にB放棄

OKでもNGでも、結果は同じ。

⑽⑾を参照。 

【1】学説の状況については、次の書籍等をご参照ください。

  • 谷口知平 (元大阪市立大学教授)・久貴忠彦 (大阪大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(27)相続⑵相続の効果-896条~959条補訂版』(有斐閣、2013年)629頁以下
  • 和田幹彦(著)/島津一郎・松川正毅(編)『別冊法学セミナー・基本法コンメンタール[第四版]相続』(日本評論社、2002年)116頁以下

【2】Cが、Aの(第1)相続を放棄した時点で、Aの相続財産(債務)が、Bの(第2)相続財産に流れ込むのを阻止できる。これとは別に、Cが、Bの(第2)相続を承認すると、Bの相続財産(債務)のみを承継できる。したがって、CがAの債務を承継することはない。

 

【3】最高裁昭和63年6月21判決(昭59(オ)787号、第三者異議事件)

要旨
 

◆甲の相続につきその法定相続人乙が承認または放棄をしないで死亡したいわゆる再転相続において、乙の法定相続人丙が甲の相続についてした放棄はその後に乙の相続についてした放棄によつて、遡及的に無効となるか

◆甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合において、乙の法定相続人である丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼつて無効になることはないものと解するのが相当であるとした事例

(要旨はWestlawJapan)

数次相続の相続放棄の期限

民法に次の条文があります。

民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
  
  1. 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
  2. (略) 
民法第916条
  相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

民法916条に上記のABCを当てはめると次のとおりです。

 

相続人Bが、被相続人Aの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人Cが自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

 

ちょっと分かりにくいですが・・・『Cさんが知ったときから3か月以内に放棄すれば間に合う』ということです。

代襲相続の場合の相続放棄


代襲相続、すなわち下図の場合

祖父A ーーーーーー 父B ーーーーー 子C
  ➋死亡    ➊死亡    

子Cは、祖父Aを直接的に代襲相続する(A→Bへの相続がない)ため、数次相続のような論点は生じません。

なお「BがAの相続放棄したときCはAを代襲相続できない」=「相続放棄は代襲原因ではない」こととは、論点が異なるのでご注意ください。

Cの選択肢

(いずれも死亡はB→Aの順とする)

許容されるか?!
ABとも承認 ⑴ A承認、次にB承認 OK
⑵ B承認、次にA承認(⑴の順序が逆) OK
⑶ A承認、同時にB承認 OK

A承認

B放棄

⑷ A承認、次にB放棄

OK

⑸ B放棄、次にA承認(⑷の順序が逆) OK
⑹ A承認、同時にB放棄 OK

A放棄

B承認

⑺ A放棄、次にB承認 OK
⑻ B承認、次にA放棄(⑺の順序が逆) OK
⑼ A放棄、同時にB承認 OK
ABとも放棄 ⑽ A放棄、次にB放棄 OK
⑾ B放棄、次にA放棄(⑽の順序が逆)

OK

⑿ A放棄、同時にB放棄

OK

この結論に達するのは次の理由です。

  • A死亡前に死亡しているBにはAの相続権が発生しない。したがって、代襲相続の場合は「CはBの相続人としてAを相続している」のではなく、民法887条の規定によりAを相続している。すなわち、代襲相続の場合には、BはA相続人としての地位を一瞬たりとも得ておらず、CはA相続人とB相続人の地位を併有している。よって、どちらを承認・放棄しても他方に影響を与えない(河村賢一・あなまち司法書士事務所)。
  • 民法887条2項の定める「代襲相続権は、代襲相続人が被相続人を直接に相続する権利である。(中略)代襲相続人が自己固有の代襲相続権により相続するということを意味する(中川善之助・泉久雄(編)/新版注釈民法(26)相続⑴/H22/242頁)。」
  • 「親の相続放棄をしていても、祖父母である被相続人の相続に関する代襲相続人になることができます。というのも、代襲相続は、被相続人の子(または兄弟姉妹)が相続開始「前」に相続権を失っている場合に「被相続人の子の子(または被相続人の兄弟姉妹の子)」が代わりに相続できる制度なので、これら子の子や兄弟姉妹の子にとって、被相続人の子(被代襲者・代襲相続人の親)の相続権の有無とは直接関係がないのです(川村勝之弁護士(リフト法律事務所)監修/【弁護士監修】代襲相続人とは|相続割合や条件・権利などを徹底解説/相続弁護士ナビ/最終アクセス221209)。」
  • 「結論を言えば、孫であるZは祖父Xの財産を代襲相続できます。なぜなら、民法939条の条文では、「”その相続に関しては”、初めから相続人とならなかったものとみなす」と規定されています。つまり、父親Yの相続に関してはたしかにその子供Zは相続人ではなくなったけれども、あくまでも父親の相続に関してのみのことであり、祖父との代襲相続の関係にまでは影響を及ぼさないからです。借金だらけの親の相続を放棄したがために、祖父母のプラス財産まで引き継げないとなれば、代襲相続の趣旨を蔑ろにすることになりますので妥当な結論と言えるでしょう(相続放棄と代襲相続の関係。孫や甥姪に財産は引き継がれるのかを解説/相続弁護士相談ナビ/最終アクセス221209)。」

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