数次相続とは、財産をお持ちの方が亡くなり相続が開始した(一次相続)けれども、遺産分割協議や名義変更手続をする前に、その方の相続人も亡くなってしまった状態(二次相続)を言います。
一定の条件を満たしていれば、一代を飛ばして相続登記をすることが可能です。
中間省略登記を認めない不動産登記の例外です。
中間省略登記できない場合には、登録免許税が倍かかることもあるなど、大変重要な論点です。
もくじ | |
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数次相続の話しをする前に・・・
よく混同される「数次相続」と「代襲相続」をサラッと比較します。
数次相続 | 代襲相続 |
祖父:甲野一郎(➊平成〇年〇月〇日死亡) │ 父:甲野太郎(❷令和〇年〇月〇日死亡) │ 子:甲野佐助 |
祖父:甲野一郎(❷令和〇年〇月〇日死亡)
│ 父:甲野太郎(➊平成〇年〇月〇日死亡) │ 子:甲野佐助 |
相続の順序は順当。 父は、祖父の遺産を相続している。 子は、父から相続した祖父の遺産を相続。
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相続の順序が逆転している。 父は、祖父の遺産は相続していない。 子が、代襲相続(民887Ⅱ、889Ⅱ)の規定によって 祖父から直接相続している。 |
〔登記申請書の登記原因〕 平成〇年〇月〇日甲野太郎相続【1】 令和〇年〇月〇日相続【2】 ※ 二つ併記します。 |
〔登記申請書の登記原因〕 令和〇年〇月〇日相続【3】
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父を名義人とする相続登記を飛ばしている (中間省略登記)。
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父を名義人とする相続登記を飛ばした訳ではない。
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【1】甲野一郎が死亡した日+甲野太郎が相続した旨
【2】甲野太郎が死亡した日。甲野佐助が相続した旨は、別途「相続人」欄に記載します。
【3】甲野一郎が死亡した日。
以下2つのパターンのときには、中間の相続登記を省略することができます。
【具体例】 祖父:甲野一郎(➊昭和〇年〇月〇日死亡) ┌──────────────┴──────────────┐ 父:甲野太郎(❷平成〇年〇月〇日死亡) 叔父:甲野二郎(❸令和〇年〇月〇日死亡) │ │ 子:甲野佐助 従兄弟:甲野大輔
甲野佐助は、祖父が資産家であった。 ➊昭和〇年〇月〇日 祖父:甲野一郎死亡 父と叔父は仲が悪くて遺産分割できないうちに・・・ ❷平成〇年〇月〇日 父:甲野太郎死亡 ❸令和〇年〇月〇日 叔父:甲野二郎死亡 |
【パターン1】甲野佐助が単独で祖父の遺した不動産を相続した。
【考え方】
佐助は、太郎が一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
大輔は、二郎が一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
佐助が、最終的に相続したということは、一旦、太郎が相続していた(二郎には行かなかった)ことになる。
中間の相続人は、太郎一人だったことになる。
【結論】
よって、甲野一郎から甲野佐助に直接相続登記が可能になる。
そして、その際の登記原因は
昭和〇年〇月〇日甲野太郎相続【1】 平成〇年〇月〇日相続【2】 |
【1】甲野一郎が死亡した日+甲野太郎が相続した旨
【2】甲野太郎が死亡した日。甲野佐助が相続した旨は、別途「相続人」欄に記載します。
【パターン2】甲野佐助と甲野大輔が半分ずつ祖父が遺した不動産を相続した。
【考え方】
佐助は、太郎が一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
大輔は、二郎が一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
佐助と大輔が、最終的に相続したということは、一旦、太郎と二郎が相続していたことになる。
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中間の相続人は一人ではない。=中間省略できない。
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【結論】
よって、次の3つの登記を要する。
①甲野一郎→甲野太郎1/2、甲野二郎1/2とする相続登記(登記原因:甲野一郎の死亡年月日)
②甲野太郎1/2→甲野佐助1/2とする相続登記(登記原因:甲野太郎の死亡年月日)
③甲野二郎1/2→甲野大輔1/2とする相続登記(登記原因:甲野二郎の死亡年月日)
数次相続で中間省略登記が認められる要件として、「中間相続人が一人である」ことが要求されている理由は・・・ 中間者が複数いると、最終相続人(上の例では、佐助・大輔)ごとに登記原因(中間者の死亡年月日)が異なることになるからである。 |
(昭和36年3月23日民事甲第691号など参照)
【具体例】 夫:甲野一郎 ━━━━━━━━┯━━━━━━━━━ 妻:甲野花子 (➊昭和〇年〇月〇日死亡=一次相続) │ (❷平成〇年〇月〇日死亡=二次相続) │ 子:甲野佐助 |
【考え方】
佐助が、一郎名義の不動産を自分名義にしたいときはどうすれば良いでしょうか?
佐助は、一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
佐助は、花子が一郎を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
佐助は、一郎の遺産について「現時点で」一人で遺産分割協議すれば「直接自分名義に」できるか?
肯定説 | 佐助は、現時点で一人で遺産分割協議すれば、直接自分名義にできる。 |
否定説 |
佐助は、現時点で一人で遺産分割協議できない。 よって、 ①亡花子1/2、佐助1/2と法定相続分で登記したうえで ②亡花子持分について、亡花子死亡を原因に佐助に相続登記をするべきである。 |
佐助は、花子から一郎の遺産分割協議に参加する権利も相続しているのだから、自分自身の権利と花子の権利で、一郎の遺産分割協議を行なうことができる。
その遺産分割協議で、花子に一切遺産が移転することなく、佐助が全部相続する旨の協議を成立させることができる。
よって、花子には一瞬たりと所有権が移っていないのであるから、当然に一郎から佐助に直接相続登記できるというのが、その根拠でした。
被相続人一郎の相続人が花子と佐助の2人であり、被相続人一郎の死亡に伴う第1次相続について遺産分割未了のまま花子が死亡し、花子の死亡に伴う第2次相続における相続人が佐助のみである場合において、佐助が被相続人一郎の遺産全部を直接相続した旨を記載した遺産分割決定書と題する書面を添付してした当該遺産に属する不動産に係る第1次相続を原因とする所有権移転登記申請については、被相続人一郎の遺産は、第1次相続の開始時において、佐助及び花子に遺産共有の状態で帰属し、その後、第2次相続の開始時において、その全てが佐助に帰属したというべきであり、上記遺産分割決定書によって佐助が被相続人一郎の遺産全部を直接相続したことを形式的に審査し得るものではないから、登記官が登記原因証明情報の提供がないとして不動産登記法25条9号に基づき上記申請を却下した決定は、適法である。
妻(母)死亡前の日付で、妻子が子を相続人とする遺産分割協議が成立していたのであれば、子がその旨の証明書(遺産分割協議証明書)を作成し登記申請書添付すれば、一発で相続登記が可能である。∵遺産分割協議は口頭でも成立する。
上記、遺産分割協議証明書には、子の印鑑証明書の添付を要する。
∵遺産分割協議書には、「申請人を除く他の相続人の」印鑑証明書の添付を要する。
遺産分割協議証明書の作成者である子は、子自身の身分のほかに、母の身分を相続した者として作成している。母は相続しないのであるから、「申請人を除く他の相続人」として、母の身分を相続した子の印鑑証明書の添付を要する。
次のような相続があった場合・・・
甲野一郎①昭和〇年〇月〇日死亡、所有権登記名義人 │ 甲野太郎②平成〇年〇月〇日死亡 │ 甲野二郎③令和〇年〇月〇日死亡 │ 甲野大輔 |
甲野一郎から甲野大輔に直接相続登記が可能である(平成29年3月30日民事二第237号法務省民事局第二課長通知)。
そして、その際の遺産分割協議書と登記原因は・・・
数次相続が生じている場合において最終的な遺産分割協議の結果のみが記載された遺産分割協議書を添付してされた相続登記申請も可(平成29年3月30日民事二第237号法務省民事局第二課長通知)。
本来であれば | こちらでも可(上記通知) |
①(亡)甲野一郎の相続人全員で、(亡)甲野太郎が相続した旨の協議書 ②(亡)甲野太郎の相続人全員で、(亡)甲野二郎が相続した旨の協議書 ③(亡)甲野二郎の相続人全員で、甲野大輔が相続した旨の協議書 |
(亡)甲野一郎の相続人全員で、甲野大輔が相続した旨の協議書一通のみ ※ 押印が必要な相続人は、左の「本来であれば」と同じ
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昭和〇年〇月〇日甲野太郎相続【1】 平成〇年〇月〇日甲野二郎相続【2】 令和〇年〇月〇日相続【3】 |
【1】甲野一郎が死亡した日+甲野太郎が相続した旨
【2】甲野太郎が死亡した日。甲野二郎が相続した旨
【3】甲野二郎が死亡した日。甲野大輔が相続した旨は、別途「相続人」欄に記載します。