法定単純承認となることなく、遺品を処分することは可能か?!


相続放棄しようとする方は、被相続人の財産や遺品を触らないのがベストです。そうは言っても道義上などの理由で処分する必要がある場合、たとえば・・・

  • 被相続人のご自宅が借家であった場合、中の物を処分してよいものか?
  • 被相続人の自動車が月極駐車場に駐めてある場合、駐車場代が毎月未納になるので、自動車を処分してもよいものか?

相続放棄をしようと思っている方が、法定単純承認とみなされることなく、無価値な物を処分すべき時期と方法は次のとおりです。

もくじ
  1. 条文の規定
  2. 判例
  3. 学説
  4. まとめ(結論)
  5. 人気の関連ページ

条文の規定


民法921条(法定単純承認)

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

② 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

③ 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

921条3号は「相続人が、限定承認又は相続放棄をした後であっても、単純承認とみなされる場合」として制裁的な法定単純承認を規定している。

1号の「処分したとき」と、3号の「消費し」は同種の意味であるが、3号の処分だけは「ひそかに(こっそり)」であることが要求されている。

判例


大審院昭和5年4月26日判決

一旦相続の放棄をした後相続財産の一部を処分しても単純承認をしたものとみなすことはできない。(要約は、WestlawJAPAN)

学説


川井健/新版注釈民法(27)/谷口知平・久貴忠彦編集/有斐閣/平成8年/479p

限定承認後の問題につき、3号が別個に規定されていることからみて、1号の処分は限定承認・放棄前のものに限るという判例・通説を支持すべきものと考えられる。

和田幹彦/基本法コンメンタール[第4版]相続/島津一郎・松川正毅編集/2002/124p

1号の処分は、限定承認・放棄をする以前のものである。(以後の処分は、3号の「ひそかに消費した場合」に該当する。)

実務家も迷う遺言相続の難事件(事例式)解決への戦略的道しるべ/遺言・相続実務問題研究会編集/野口大・藤井伸介編集代表/新日本法規/令和3年/1p~

「処分行為と指摘される行為は相続放棄を申し立てて、その受理通知書が来てから行なうべきでしょう。相続人が有効に限定承認又は放棄をした後に相続財産を処分した場合は、民法921条1号にいうところの「処分したとき」には当たらないとの裁判例もあります(大判昭5・4・26民集9・427)。」

「さらに相続放棄まで暫定的に保管していることを対外的にも明らかにしておき・・・その廃棄・取得・譲渡は相続放棄を申し立てて、その受理通知書が来てから行うべきでしょう。」

まとめ(結論)


いずれの判例・学説でも、相続放棄「後」に「処分」した場合には、法定単純承認の効果は生じないとする。すなわち、相続放棄を検討している場合には「処分」は、相続放棄が受理された後に行なうべきである。これを表にまとめると、下表のようになる。

相続放棄「前」

相続放棄

申述の受理

相続放棄「後」
処分→法定単純承認となる。 処分→法定単純承認とならない。
ひそかに処分→法定単純承認となる。 ひそかに処分→法定単純承認となる。

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