平成13年6月までに相続開始又は代襲原因発生の場合は注意「非嫡出子の法定相続分」


「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1」とする民法の規定について、最高裁は憲法違反と判断し、その後行われた民法改正によって「非嫡出子の法定相続分を嫡出子と同じ」になりました。これらは、平成25年の出来事で、10年以上が経っています。

しかし、現在でも「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1」として計算せざるを得ない場合があります。

この記事では、平成13年6月までに被相続人がお亡くなりになった場合、又は同月までに代襲原因(中間の相続人が死亡している)が発生している場合において、相続人中に嫡出子と非嫡出子がいるときの注意点を説明しています。

この記事は、司法書士などの専門家向けです。

もくじ
  1. 非嫡出子とは
  2. 非嫡出子の法定相続分に関する「法律と判例の変遷」
    1. 改正前民法の規定
    2. 日本国憲法の規定
    3. 最高裁大法廷平成7年7月5日決定
    4. 「合憲」とする最高裁の判断が相次ぐ
    5. 最高裁第一小法廷平成15年3月31日判決
    6. 最高裁第二小法定平成21年9月30日決定
    7. 最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)984号 ・平24(ク)985号)
    8. 最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)1261号)
    9. 平成25年12月11日公布・施行された平成25年法律第94号による民法改正
    10. まとめ
  3. 残された問題
    1. 平成13年6月までに相続開始
    2. 平成13年6月までに代襲原因発生

非嫡出子とは


非嫡出子(ひちゃくしゅつし)とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを指します。

嫡出子(法律上婚姻した夫婦の間に生まれた子)と対比される概念です。

 

非嫡出子は、かつて「私生児(しせいじ)」「婚外子(こんがいし)」ともいわれていましたが、これらの表現は差別的であるとして現在は使われません。

現在では、非嫡出子又は嫡出でない子といわれています。

法律と判例の変遷


かつて、民法900条4項ただし書き前段には「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」という規定がありました。

最高裁判所は、最高裁二小平成21年9月30日決定までは、この規定を合憲と判断していましたが、最高裁大法廷平成25年9月4日決定では違憲であると判断しました。

改正前民法の規定

後に削除されることとなる部分を太字で表現しています。

改正前民法第900条(法定相続分)
   同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一~三 (略)

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。 

日本国憲法の規定

憲法第14条に違反するか否かが争われるので、日本国憲法を見ておきましょう。

日本国憲法第14条
  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② (略)

③ (略)

最高裁大法廷平成7年7月5日決定

〔裁判要旨〕

民法900条4号ただし書前段は、憲法14条1項に違反しない。

5人の裁判官による反対意見がある。

最高裁大法廷平成7年7月5日決定(平3(ク)143号、遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
  本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の二分の一の法定相続分を認めることにより、非嫡出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。これを言い換えれば、民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。

現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが、右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず。憲法一四条一項に反するものとはいえない。

「合憲」とする最高裁の判断が相次ぐ

平成何年の何月何日までが合憲で、何日以降が違憲なのかを確認するため「非嫡出子の法定相続分」に関する判例をチェックしました。

  • 最高裁第一小法廷平成12年1月27日判決(平成11年(オ)第1453号)
    :最決自体には、判断基準時の記載なし。第一審・控訴審は見当たらず。
  • 最高裁第二小法廷平成15年3月28日判決(平成14年(オ)第1630号)
    :最決自体には、判断基準時の記載なし。第一審・控訴審は見当たらず。
  • 最高裁第一小法廷平成15年3月31日判決(平成14年(オ)第1963号)
    :最決自体には、判断基準時の記載なし。第一審判決(東京地裁平成14年3月29日判決)によると相続開始(判断基準時)は平成12年9月18日。
  • 最高裁第一小法廷平成16年10月14日判決(平成16年(オ)第992号)
    :最決自体には、判断基準時の記載なし。第一審・控訴審は見当たらず。
  • 最高裁第二小法廷平成21年9月30日決定(平成20年(ク)第1193号)
    憲法適合性の判断基準時は,相続が発生した平成12年6月30日(以下「本件基準日」という。)

いくつかピックアップして見ていきましょう。

最高裁第一小法廷平成15年3月31日判決

後の違憲決定(最高裁大法廷平成25年9月4日決定)において「特に,前掲最高裁平成15年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。」とまでいわれています。

相続開始時(判断基準時)は、最高裁決定には記載がありませんが、第一審判決(東京地裁平成14年3月29日判決)によると平成12年9月18日です。

最高裁第二小法定平成21年9月30日決定

一つ上の最判(平成15年3月31日)の5年後になされた最高裁決定ですが、事案(相続開始時)はこちらの最高裁決定の方が古い(昔である)ことにご注意ください。

最高裁二小平成21年9月30日決定(平20(ク)1193号、遺産分割申立て事件の審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
 
  • 民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでない。
  • 憲法適合性の判断基準時は、相続が発生した平成12年6月30日(以下「本件基準日」という。)
裁判官竹内行夫の補足意見
  法定相続分を決定するに当たっては,相続発生時において有効に存在した法令が適用されるのであるから,本件における民法900条4号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)の憲法適合性の判断基準時は,相続が発生した平成12年6月30日(以下「本件基準日」という。)ということになる。したがって,多数意見は,飽くまでも本件基準日において本件規定が憲法14条1項に違反しないとするものであって,本件基準日以降の社会情勢の変動等によりその後本件規定が違憲の状態に至った可能性を否定するものではないと解される。・・・・・そうすると,少なくとも現時点においては,本件規定は,違憲の疑いが極めて強いものであるといわざるを得ない。
裁判官今井功の反対意見
  非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は,明治の旧民法当時に設けられたものであり,太平洋戦争後の民法の改正においても維持されて現在に至っている。・・・・・非嫡出子の相続分が嫡出子のそれと差があることの問題性は,古くから取り上げられ,昭和54年には,法制審議会民法部会身分法小委員会の審議を踏まえて,「非嫡出子の相続分は嫡出子のそれと同等とする」旨の改正要綱試案が公表されたが,改正が見送られた。さらに平成6年に同趣旨の改正要綱試案が公表され,平成8年2月の法制審議会総会において同趣旨の法律案要綱が決定され,法務大臣に答申されたが,法案の国会提出は見送られて,現在に至っている。前記大法廷決定の当時は,改正要綱試案に基づく審議が法制審議会において行われており,改正が行われることが見込まれていた時期であった。ところが,法制審議会による上記答申以来十数年が経過したが,法律の改正は行われないまま現在に至っているのであり,もはや立法を待つことは許されない時期に至っているというべきである。

最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)984号 ・平24(ク)985号)

いよいよ違憲決定がなされました。

この決定のうち下記3点が重要です。

最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)984号 ・平24(ク)985号、遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
 
  • 本件規定は,遅くとも平成13年7月当時〔※筆者注:相続開始時である平成13年7月の日付は最高裁判例検索システムでも▲▲日と表示されている。〕において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。・・・
  • 本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり,平成7年大法廷決定・・・小法廷決定が,それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。・・・
  • 本決定の違憲判断は,Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。・・・

最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)1261号)

こちらも同日なされた違憲判決ですが、判断基準時(相続開始時)が平成13年11月▲▲日であって、同日の最高裁決定(平成24(ク)984号、同985号)よりも後ろであるため、重要視されなかったものと思われます。

判示内容も、最高裁決定(平成24(ク)984号、同985号)と同じです。

最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)1261号 、遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)

平成25年12月11日公布・施行された平成25年法律第94号による民法改正

最高裁大法廷平成25年9月4日決定から約2か月後、次のとおり民法が改正されました。

民法900条ただし書きから、ただし書き前段が削除されたのです。

現行民法第900条(法定相続分)
  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一~三 (略)

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし◆削除◆、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。 

平25年法律第94号付則
   (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。

(経過措置)

2 この法律による改正後の第900条の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用する。

まとめ

最高裁大法廷平成25年9月4日決定は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定が、遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり、それ以前の相続開始時点を基準になされた合憲性を肯定した過去の最高裁の判断を変更するものではない(最高裁大法廷平成25年9月4日決定を参照。)としているので・・・

  1. 相続開始時期(被相続人の死亡時)によって、非嫡出子の法定相続分に違いがあります。
  2. 最高裁が未判断の期間(平成12年9月19日~平成13年6月)がある。

まとめると下表のとおりです。

相続開始時期 非嫡出子の法定相続分
(平成12年6月30日以前) 嫡出子の2分の1(∵最高裁第二小法廷平成21年9月30日決定)
平成12年9月18日以前 嫡出子の2分の1(∵最高裁第一小法廷平成15年3月31日決定)

平成12年9月19日~平成13年6月

最高裁は、未判断
平成13年7月以降 嫡出子と同じ(∵最高裁大法廷平成25年9月4日決定)
(平成25年9月5日以降) 嫡出子と同じ(∵改正民法付則)

過去(平成25年9月4日まで)に成立した遺産分割協議等は覆らない。

最高裁大法廷平成25年9月4日決定は、既に相続人間において、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1であることを前提としてなされた裁判、合意等により確定的なものになった法律関係までをも現時点で覆すことはできません(最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平24(ク)984号 ・平24(ク)985号)を参照。)としています。

残された問題


数多の最高裁の判断がでていますが、次の問題が解決されずに残っていますので、ご注意ください。

 

平成13年6月までに相続開始

相続登記義務化により、古い相続が掘り返されています。

平成13年6月までに相続開始した場合で、相続人中に嫡出子と非嫡出子がいらっしゃるときには、要注意です。

また、平成12年9月19日から平成13年6月までの間の相続開始については、最高裁が未判断であるため、事前に法務局等と調整が必要です。

 

平成13年6月までに代襲原因発生

また若くして亡くなる方もいらっしゃいますので、平成13年6月までに代襲原因が発生しているときも要注意です。

「この論点は、現在の相続においても代襲相続のケースでは問題になりえます。被代襲者の相続開始が平成13年6年30日以前で、代襲相続人に嫡出子と非嫡出子が存在する場合です(野口大・藤井伸介編集代表『実務家も迷う遺産相続の難事件・事例式解決への戦略的道しるべ』新日本法規/R3/48p以下を参照。)。

また、平成12年9月19日から平成13年6月までの間の相続開始については、最高裁が未判断であるため、事前に法務局等と調整が必要です。