財産を相続できなくなる反面、負債を負担する可能性もなくなるから安心だとお考えの「相続放棄」。ところが、相続放棄をしても免れない可能性のある負債があります。
それが、固定資産税・都市計画税(以下「固都税」)です。詳細に分かりやすく説明します。
もくじ | |
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相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 |
「初めから」の「初め」とは、相続開始(被相続人死亡時)を意味します。
つまり、相続放棄の効果は、一瞬たりと相続しなかったことになるという意味なんです。
第1項 |
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固定資産税は、固定資産の所有者に課する。 |
第2項 |
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前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日【1】前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。 |
【1】賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日です(地方税法318)。
登記簿上の所有者が1月1日時点で死亡している場合には、相続登記が終わっていなくても、登記簿上の所有者の相続人を納税義務者として課税されるのです。これを台帳課税主義といいます。
令和2年9月にWestlawJAPANという有料判例検索エンジンで「相続放棄」「台帳課税主義」を検索ワードにして検索をしたところ、次のような裁判例が出てきました。
◆被相続人の債権者が、相続対象不動産について、債権者代位により相続人への相続登記を経由したうえ、仮差押えの登記をした場合、相続人が賦課期日において登記簿上所有者とされていたことからなされた固定資産税及び都市計画税の賦課決定処分は、その後、登記名義人が相続放棄をしても適法である。 ◆賦課期日において登記簿上名義人であったため真実の所有者に代わって固定資産税及び都市計画税を納付した者は、真実の所有者に対し、不当利得として、右納税分の返還請求をすることができる。 ◆台帳課税主義は、多数の固定資産につき限られた人員で短期間に徴税事務を行わなければならないところ、所有権の帰属の判定に困難を伴うことから、徴税の便宜を図る必要があるという理由によるものである。 ◆法律が明示的に認めている場合以外に、台帳課税主義の例外を認めることは許されない。 ◆被相続人の債権者が代位により相続登記を経由した結果、賦課期日に登記簿上所有者とされている者に対してなされた固定資産税及び都市計画税賦課処分は、その後、登記名義人らが相続放棄しても適法であるとされた事例。 ◆債務者の死亡に伴い、同人所有の土地建物について債権者が仮差押決定に基づく債権代位により相続人への相続登記を行ったため賦課期日に登記簿上の所有者とされた相続人に対してなされた固定資産税及び都市計画税賦課処分が、登記名義人がその後に相続放棄しても適法であるとされた事例。 (判例要約は、WestlawJAPANによる) |
下級裁判所の判断とはいえ、民法よりも地方税法の規定が優先する。つまり「相続放棄しても一度課税台帳に載った限り、固都税の支払いを免れない」と判断してしまったのです。
◆土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う。 (判例要約は、WestlawJAPANによる) |
台帳課税主義を有効とは判示していますが、「相続放棄と台帳課税主義の関係」については述べていません。
以上をまとめると次のようになります。もっとも一応は相続放棄をしておくことをお薦めします。
被相続人の死亡した年中に (年をまたがず)相続放棄をした場合 |
被相続人の死亡した翌年以降に (年をまたいで)相続放棄をした場合 |
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12月頭 | Aさんが死亡 | Aさんが死亡 |
12月中 | 相続人Bの相続放棄申述が受理される | |
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登記名義はAさんのまま →固定資産税課税台帳上A死亡につきBが納税義務者となる。 →台帳課税主義(地方税法343) 【課税処分は、実体法上間違い】 |
登記名義はAさんのまま →固定資産税課税台帳上A死亡につきBが納税義務者となる。 →台帳課税主義(地方税法343) 【課税処分は、実体法上も合法】 |
2月 | 相続人Bの相続放棄申述が受理される | |
5月 |
相続人Bに固都税の納税通知 →納付せず、役所に相続放棄した旨を伝えて課税処分のやり直し【1】をしてもらうことができる |
相続人Bに固都税の納税通知 →相続放棄したにも関わらず、一度課税台帳に登録された以上はBに納税義務がある。【2】 |
【1】正しい納税義務者を課税台帳に登録の上で課税し直してもらうことができる。
【2】上記横浜地裁判決などによれば、納税義務があることになります。もっとも役所によって対応も異なるようですので、「相続放棄した。相続放棄には遡及効があるのだから、課税処分はおかしい」とクレームをつけるべきです。それでも、課税処分のやり直しをして貰えないときには、裁判をして争うか、一旦支払ってから放棄しなかった相続人に請求(求償)することになります。