相続登記に必要な書類が不足している場合には、本来であれば登記申請が却下されます。
ところが、集められる書類を全部集めたうえ、上申書を添付することで特別に登記申請が受理されることがあります。
もくじ | |
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相続登記は、登記所に対して、次の事実全てを証明すると、受理されます。
証明すべき事項 | 証明のための添付書類 |
➊財産を持ってお亡くなりになった方(被相続人)の相続人が誰か(隠し子がいないこと) | 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・原戸籍 |
❷遺産分割協議が成立したこと |
遺産分割協議書 相続人全員の印鑑証明書 |
❸遺産分割協議に参加した者が相続人であること |
相続人全員の戸籍 相続人全員の本籍地入住民票【1】 |
❹所有権登記名義人【2】と被相続人が同一人物であること |
「被相続人の住民票・戸籍附票上の住所氏名」と「登記簿上の住所氏名」が一致していること 【3】【4】 |
【1】遺産分割協議がキッチリと成立したことを証明する印鑑証明書には本籍地の記載がありません。
逆に、相続人であることを証明する戸籍謄本には住所地の記載がありません。
そこで、印鑑証明書と戸籍謄本の関係性を証明するために本籍地入住民票又は戸籍附票を添付します。
【2】所有者として、登記簿に記載された方のこと。
【3】「登記簿上の住所」と「被相続人の本籍地」が一致している場合
S32.3.31以前になされた登記 | 住居表示実施証明は不要 |
S32.4.1以降になされた登記 |
住居表示実施証明が必要 ∵住居表示が実施され、住所で登記することになった。 |
【4】登記簿に「移記(縦書登記簿がコンピュータ化で横書きになったため、古い登記事項は閉鎖された)」と記載がある場合には、登記を受けたときの住所が現在の登記簿には記載されていないことがあるので、閉鎖登記簿を取得して確認します。
➊と❹の立証に必要な戸籍・除籍・原戸籍は、保存期間が定められていて古くなると廃棄される。 |
そんなときには、上申書を添付することで登記申請が受理されることがあります。 上申書を添付されることで受理されるのは、次の二つのパターンです。 |
本通達以前の取扱い |
被相続人の除籍又は改製原戸籍の一部が滅失等で出生~死亡まで添付できない場合には、現存する除籍謄本のほかに①②を添付する必要があった。 ①「除籍等謄本を交付できない」旨の市町村長の証明書(いわゆる「廃棄済証明」) ②「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書付)【上申書】 (昭和44年3月3日付民事甲第373号法務省民事局長回答) |
問題点 |
✔ ②の「他に相続人はない」旨の上申書に相続人全員から実印をもらうのは困難 ✔ 相続登記未了の不動産が増加 |
本通達 |
①「除籍等謄本を交付できない」旨の市町村長の証明書(いわゆる「廃棄済証明」) を添付すれば・・・ ② 相続人全員の上申書(印鑑証明書付)は、不要 (昭和44年3月3日付民事甲第373号法務省民事局長回答は、変更) |
確定判決の理由中において甲の相続人は当該相続人らのみである旨の認定がされている場合は,相続人全員の証明書に代えて,当該判決正本の写しを相続を証する書面(登記原因証明情報)として取り扱って差し支えない(平成11年6月22日民三1259号民事局第三課長回答)
なお、被告欠席の場合のいわゆる擬制自白による調書判決の場合にも、当該先例を有効とする裁判例がある(奈良地裁判決平成27.12.15不動産登記申請却下処分取消請求事件)。
注意点
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この通達は、相続人を確定する(他に相続人がいないこととする)意味を持ちません。よって、他にも相続人が存在している場合には、その相続人は、この相続登記の効力を争うことが可能です。 |
相続開始から時間が経ちすぎて、被相続人の最後の住所を証明する書類が取得できない。
登記簿上の名義人が不動産所有権取得時にいた住所に、被相続人が住んでいたということを証明する書類が取得できない。
本通達以前の取扱い
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各地の法務局によって取扱いにバラツキがありました。 すなわち、法務局によって、以下①~④の書類の添付を要求したり、しなかったり。 ①登記済権利証書 ②「『登記簿上の名義人』と『被相続人』は同一人物である」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書付)(いわゆる【上申書】) ③「所有権登記名義人の登記簿上の住所には、登記簿上の名義人は存在していない」旨の市町村長の証明書(いわゆる「不在籍証明書」「不在住証明書」) ④納税通知書 |
問題点 |
②の「同一人物である」旨の相続人全員による証明書を添付するのは困難 相続登記未了の不動産が増加 |
本通達 |
①登記済権利証書を添付すれば・・・ ②~④の書類は添付不要 |
「所有権登記名義人の住所氏名」と「被相続人の住所氏名」が一致していることを要求されるのは、同姓同名の別人の財産を、誤って相続登記をすることを防止するために必要です。
登記簿上の名義人しか所持していない権利証を相続人が提出するなら、登記簿上の名義人の相続人であることに間違いはないだろうという考えであり、妥当な取扱変更です。