遺留分減殺請求は「いりゅうぶんげんさい」請求と読みます。
遺留分制度は、民法が改正された際に大きな変更がありました。
こちらの記事では主に、2019.7.1以前に開始した相続に関する遺留分減殺請求についてご説明しています。2019.7.1以降に開始した相続に関する遺留分侵害額請求についてはこちら「遺留分侵害額請求(2019.7.1以降開始相続)」をご参照ください。
もくじ | |
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遺留分減殺請求制度は、兄弟姉妹以外の法定相続人に相続分の一部を保障する制度です。
たとえば、妻子ある方が、遺言で「財産をすべて第三者にあげる」と書いていた場合、その遺言が効力を発生すると、その方の財産は、全て第三者のものになって、妻子が生活していけなくなります。そこで、民法は、妻子に遺留分という特別の権利を与え、妻子はこれを行使することによって、最低限の財産を取得することができます。
もっとも、遺留分を侵害する被相続人の処分行為(遺言など)も当然無効になるわけではなく、相続が開始した後に遺留分減殺請求をして、はじめて効力を失います(最高裁昭和35.7.19判決)。
遺留分を主張するか、主張しないかは相続人の自由です。
遺留分減殺請求権を行使した場合の効果は、法改正の前後で、次のとおり異なります。
次のとおり計算します(民1029Ⅰ)。
贈与を足すのは、死亡直前に、全ての財産を贈与することによって遺留分制度を回避されるのを予防するためです。
相続開始時のプラスの財産の額【2】 |
+
贈与された財産の額【3】 |
-
相続する負債の額 【4】 |
【1】寄与分(特別の寄与)は考慮されない。
【2】条件付権利、存続期間の不確定な権利も含まれる(民法1029Ⅱ)
【3-1】組み込まれる贈与は次のとおり
① 次の贈与(民1030)
受贈者(共同相続人に限らない) | |||
善意 | 悪意(=遺留分侵害の認識あり) | ||
贈与者 | 善意 | 相続開始前1年内の贈与 | 相続開始前1年内の贈与 |
悪意 | 相続開始前1年内の贈与 | 贈与時期を問わない |
② 当事者双方が悪意の不相当対価の有償行為(民法1039)は、時期を問わない。
③ 特別受益としての贈与(民法1044)は、時期を問わず、遺留分侵害の認識を問わず、全て加算される。特別受益の持戻し免除を受けたとして加算される。
【3-2】過去の贈与も、相続開始時を基準に評価される。金銭は物価指数に従って相続開始時の貨幣価値に換算する。
【4-1】未払の税金や罰金を含む。
【4-2】保証債務は主債務者が無資力である場合などにのみ減算する(東京高判H8.11.7)
遺留分権利者全体に残されるべき遺留分は、次の遺留分率を掛けて算出します(民1028)。
配偶者
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直系卑属 (子孫) |
直系尊属 (父母) |
兄弟姉妹
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単独相続のとき | 1/2 | 1/2 | 1/3 | なし |
配偶者とともに相続したとき | ー | 1/2 | 1/2 | 配偶者のみ1/2 |
個々の遺留分権利者に残されるべき遺留分の額は、法定相続分の割合を掛けて算出します。
侵害された遺留分額(減殺請求できる額)は、遺留分額から貰ったものを全て引いて計算します。
遺留分額
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-
遺留分権利者が相続で得たプラス財産額ーマイナス財産額 |
遺贈を受けた額 |
特別受益の額 |
遺留分減殺請求した結果、どの財産が遺留分権利者のものになるか順序が決められています。
❶相続開始と減殺するべき贈与・遺贈があることを知ったときから1年内、かつ、相続開始から 10年内に遺留分減殺請求権を行使する必要があります(民法1042)。
❷意思表示は、相手方に届く必要があります。
❸次のような裁判例もありますので、遺言無効などを主張するか否かに関わらず、必ず、遺留分減殺請求をしておく必要があります。
❹遺留分減殺請求権行使の結果発生する物権的請求権は、消滅時効にかかりません。
❶ 遺留分減殺請求の意思表示が、相手方に到達すると、遺留分を侵害している範囲で遺贈・贈与は効力を失い、相手方と遺留分権利者の共有となります(物権的効力)。
❷ 遺留分権利者が取得するのは、共有持分権(所有権)ですので、消滅時効には係りません。
❸ 遺留分権利者が取得したのが、第三者に対する債権であるときには、放置しておくと消滅時効に係ります。
☛ 可能なら、ご本人がお亡くなりになるまでに、遺言や財産の有無や所在を確認すべきです。
☛ 遺留分減殺請求権は、相続開始と減殺するべき贈与・遺贈があることを知ったときから1年内、かつ、相続開始から10年内に行使する必要があります。ご相談はお早めになさってください。
☛ 可能なら、ご本人がお亡くなりになるまでに、遺言や財産の有無や所在を確認すべきです。
☛ 配達証明付の内容証明郵便を利用しますが、これは、相手方が遺留分減殺請求など受け取っていないとして消滅時効を主張することを予防するためです。
☛ 話し合う内容は、例えば不動産であれば、どの程度の持分を遺留分権利者に移す必要があるのか話し合います。
☛ 遺留分を侵害した方は、遺留分権利者に対して、お金を払うから、不動産の持分を渡さないことを求めることが出来ます(民法1041)。
☛ 話し合い内容は必ず、録音しておきましょう。隠し録音でも結構です。話し合いで決着すれば合意書を作成します。
☛ 訴訟前に必ず調停が必要です(調停前置主義)。
☛ 被相続人の最後の住所地は、管轄権がありません。
☛ 調停が不調になっても、家裁の審判には移行しません。解決するためには、必ず訴訟提起が必要です。
☛ 管轄は、次のうち有利なところに提起します。
①被相続人の最後の住所地
②不動産の移転登記を求めるときは、不動産所在地
③金銭の返還を求めるときは、あなたの住所地
☛ 相手方が第三者に譲渡してしまわないうちに、早急に登記が必要です。
目安 | |
遺留分減殺請求書作成(内容証明郵便) | 1週間 |
遺留分減殺に関する合意書作成 | 2週間 |
遺留分減殺による物権返還請求調停申立書作成 | 1か月 |
申立~第1回期日 | 1か月 |
第1回期日から調停成立まで(期日間は1~2か月間隔)×(3回~10回以上) | 3か月~2年 |
遺留分減殺請求訴状作成 | 1か月 |
業務の種類 | 司法書士の手数料・報酬 | 実費 |
戸籍収集 | 22,000円(税込)~ | 5,000円~ |
相続関係説明図作成 | 33,000円(税込)~ | 0円 |
遺留分減殺の意思表示(内容証明郵便) | 22,000円(税込) | 1,200円~ |
遺留分減殺に関する合意書作成 | 110,000円(税込)~ | |
遺留分減殺による物件返還請求調停申立書作成 | 220,000円(税込)~ | 1万円程度 |
遺留分減殺訴訟(簡裁・代理) | 220,000円(税込)~ | 訴額による【1】 |
遺留分減殺訴訟(地裁・書類作成援助)【2】 | 220,000円(税込)~ | 訴額による【1】 |
追加の裁判所提出書類作成【2】【3】 | 5,500円~220,000円(税込)/通 | 手続による |
期日同行支援日当【4】 | 22,000円/期日 | |
遺留分減殺による所有権移転登記 | 110,000円(税込)~ | 固定資産税評価額の1000分の4 |
【1】例えば、140万円の返還を求める場合の実費は、①収入印紙12,000円と、②切手代8,000円程度です。
【2】裁判所への出廷や示談折衝をご依頼者ご自身でしていただく場合の費用です。
【3】書類作成前に概ねの費用をお伝えいたします。
【4】地裁・家裁・高裁の事件で、司法書士の代理権がない場合に、相手方や裁判官の言葉を聞き取り、次回期日などでの対応をアドバイスします。
遺留分の計算をする際には、寄与分を引くこととはされていません。また、「寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分減殺請求訴訟において、抗弁として主張することは許されない」(東京高裁H3.7.30)。
よって、遺留分減殺請求に対する抗弁として、寄与分を主張することは出来ません。
(令和元年5月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)
上のQとは異なり、「寄与分を定めるに際しては、遺留分を侵害しないようにしなければならないのかという」問題です。
相続人同士の話し合いで、寄与分(通常は話し合いで寄与分を決めることはせず、相続する財産を決めます)を決めるに際して、遺留分を侵害しても問題ありません。
話し合いが決裂した場合には、寄与分を定める審判で裁判所に決めてもらいます。裁判所は寄与分を定めるに際して、次のように考えます。すなわちで、「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(904条の2Ⅱ)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」(東京高裁平成3.12.24決定)。
(令和元年5月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)
家庭裁判所の審判で、遺留分を超える寄与分が認定された場合に、これに対する遺留分減殺請求は出来ないとされています。遺留分減殺請求の対象は、遺贈・贈与に限定されている(民1031)からです。
(令和元年5月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)