配偶者居住権の法的性質


新民法になって新設された権利「配偶者居住権」・・・これが一体どういう権利なのか、明らかにしていきたいと思います。

もくじ
  1. 配偶者居住権は譲渡できるの?!
  2. 配偶者居住権に基づく増改築ってできないの?!
  3. 配偶者居住権で第三者に賃貸借できるの?!
  4. 配偶者居住権の現金化って出来ないの?!
  5. 配偶者居住権者の義務とは?!
  6. 建物管理なの費用は誰が負担するの?! 
  7. 配偶者居住権が消滅する場合とは?!

配偶者居住権は譲渡できるの?!


配偶者は、配偶者居住権を譲渡できません(民法1032Ⅱ)。

譲渡禁止とは、お金をもらって売る「売却」も、ただであげる「贈与」も出来ないことを意味します。建物所有者が譲渡を承認しても、譲渡することは出来ません。

配偶者は、建物所有者に対して、配偶者居住権の買取りを請求できません。

配偶者居住権に対する差押えや強制執行はできない。

配偶者が破産をしても、配偶者居住権は破産財団に組入れられない。

配偶者居住権に基づく増改築って出来ないの?!


「増築」床面積を増やす工事・・・建物所有者の承諾がなければできません(民法1032Ⅲ)

「改築」既存建物を取り壊して、建替えること・・・建物所有者の承諾がなければできません(民法1032Ⅲ)

「上に当てはまらないバリアフリー化工事」・・・建物所有者の承諾なく、できます。

 

賃貸借の場合と異なり、承諾に代わる許可の制度(借地借家法17Ⅱ参照)も配偶者居住権の場合にはありません。

「増築」や「改築」が必要になりそうな場合には、あらかじめ遺言や遺産分割協議書でその旨を定めておく必要があります。

配偶者居住権で第三者に賃貸借できるの?!


第三者への賃貸も、建物所有者の承諾がなければできません(民法1032Ⅲ)。

将来、生活がどう変わるかわかりません。あらかじめ遺言や遺産分割協議書でその旨を定めておくと良いかもしれません。

もっとも、配偶者居住権は、配偶者の死亡により消滅しますので、配偶者死亡の際には自動的に大家さんが建物所有者に変更されるというような賃貸借契約書上の工夫も必要です。

配偶者居住権の現金化って出来ないの?!


ずっとこの家で暮らそうと思っていたけれど、一人暮しが困難になってきたので、配偶者居住権を処分して施設に入居したい。そんな時にも、お金に換えることが出来ないと、配偶者は困ってしまいます。

いくつか現金化する方法はあります。

建物所有者に買い取ってもらう。

このコラムで、「建物所有者に対する買取り請求権はない」と明言しましたが、これは「強制的に」買い取らせる権利はないということです。

配偶者居住権を放棄する代わりに、建物所有者が配偶者居住権者に対して「任意に」お金を払ってくれるのであれば、それで大丈夫です。

建物所有者にとっても、配偶者居住権者に配偶者居住権を放棄されてしまうと、多額の贈与税の支払い義務が発生する可能性がある場合などには、同意してくれる可能性はあります。

第三者に賃貸する。

「配偶者居住権で第三者に賃貸借できるの?!」をご参照ください。

配偶者居住権者の義務とは?!


次のような義務を負います。くれぐれも違反をして配偶者居住権を消滅させられないよう注意が必要です。

 

〇=義務違反の効果として、建物所有者が配偶者居住権の消滅請求をなしうる場合

種類 内容 義務違反の効果
用法遵守義務 

前と同じ使い方をする義務。ただし従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない(民1032Ⅰ)。

善管注意義務

自己の物ではなく、人様の所有物として大切に扱う義務(民1032Ⅰ)。

増改築禁止

建物所有者の承諾なく、増改築しない義務(民1032Ⅲ)。

承諾がもらえたときは、書面で取得されることをお勧めします。

賃貸禁止

建物所有者の承諾なく、第三者に使わせない義務(民1032Ⅲ)。

承諾がもらえたときは、書面で所得されることをお勧めします。

通知義務 建物が修繕を要するとき、又は建物に権利を主張する物があるときは、所有者に通知する義務(民1033Ⅲ)  
必要費負担義務 通常必要費を負担する義務(民1034Ⅰ)  
返還義務 配偶者居住権が消滅したときに、建物を所有者に返還する義務(民1035Ⅰ)  
付属物収去義務 配偶者が「相続開始後に」建物に付属させた物を収去(取り去る)義務(民1035Ⅱ、599Ⅰ)  
原状回復義務 配偶者が「相続開始後に」損傷させたとき、原状に回復する義務(民1035Ⅰ、621)  

建物管理などの費用は誰が負担するのか?!


配偶者居住権を設定した場合、建物に関する費用は、配偶者(配偶者居住権者)が負担するのか?それとも建物所有者が負担するのか?民法には、その定めもあります。

結論から申し上げると、使用貸借の場合(無料で借りている場合)と全く同様ということです。

以下、配偶者居住権・使用借権・賃借権を比較します。

   配偶者居住権 使用借権 賃借権
通常の必要費【1】 居住者負担 居住者負担 居住者負担
特別の必要費【2】 所有者負担 所有者負担

消費者契約【4】:所有者負担

上記以外:契約による

 

有益費【3】

      

所有者負担

居住者が負担した場合、建物返還時に価格が現存する場合に限り、建物所有者の選択に従い支出額又は増加額

所有者負担
居住者が負担した場合、建物返還時に価格が現存する場合に限り、建物所有者の選択に従い支出額又は増加額

所有者負担

居住者が負担した場合、建物返還時に価格が現存する場合に限り、建物所有者の選択に従い支出額又は増加額

【1】建物・敷地の固定資産税・都市計画税【5】、マンション管理費、その他【6】

【2】不慮の風水害による建物損傷による修繕費

【3】建物所有者の承諾を得た建物増改築費、マンション修繕積立金

【4】事業者や法人ではない消費者が借りた場合には、消費者契約法が適用されます。

【5】固都税の納付書(請求書)は、建物所有者に送付されます(地方税法343Ⅰ)。そこで実務上は、所有者が支払った上で、配偶者居住権者に求償(請求)することになると思われます。地方税法の改正が望まれます。

【6】火災保険料は「通常の必要費」として、居住者負担になるでしょうが・・・保険契約者は配偶者居住権者と建物所有者の共同にすべきとする見解があります。配偶者居住権が設定された建物が火災などで滅失すると配偶者居住権は消滅します(民法1036)ので、配偶者も火災保険料を取得して新居確保の費用に充当する必要があるためです。その一方、建物所有者が火災保険料を取得する必要があるのも言うまでもないからです。保険会社実務の適切な運用が望まれます。

居住建物の費用負担に関する条文

上表の根拠になる条文を掲載しておきます。すべて民法です。

配偶者居住権 使用借権 賃借権

第1034条(居住建物の費用負担)

1 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する

2 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

第595条(借用物の費用負担)

1 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。

2 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

第608条(賃借人による費用の償還請求)

1  賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。 

2  賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

 

第583条 (買戻しの実行)

1(略)

2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第196条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

 

第196条(占有者による費用の償還請求)

1 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 

2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

第196条(占有者による費用の償還請求)

1 【1項は準用せず】

 

 

 

 

2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

配偶者居住権が消滅する場合とは?!


「配偶者が居住建物から転居したとき」は消滅事由に入っていないことに注意が必要です。

配偶者の死亡(民1030)

配偶者が死亡すれば、存続期間の定めがあり、その存続期間が残っていても消滅する。

存続期間を定めたときの存続期間の満了

更新することはできません。

配偶者が居住建物の全部の所有権を取得したとき

混同によって消滅します。

但し、居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しません(民1028Ⅱ)。

居住建物が滅失したとき(民1036、民616の2)

民法1036で、民法第616条の2を準用しています。

配偶者居住権に優先する抵当権等が実行されたとき

配偶者に用法遵守義務違反などがあったときに、居住建物所有者から配偶者居住権の消滅請求を受けたとき(民1032Ⅳ)

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