最高裁判所は、毎年、成年後見に関する統計を公表しています。
このコラムでは、統計から読み解くことができる「専門職後見人の不祥事」について考察します。
なお、最高裁統計における「専門職後見人」とは、弁護士・司法書士・社会福祉士の三士業です。
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「専門職後見人」とは、弁護士、司法書士、社会福祉士の三士業をさします。
その他の行政書士、税理士などは「専門職以外」に含まれています。
(以上、令和4年5月6日最高裁事務総局家庭局に電話にて照会。)
(後見人等による不正事例〔平成23年から令和3年まで〕/最高裁事務総局家庭局/最終アクセス220508)
〔表1〕に基づいて次のとおり計算した結果が〔表2〕です。
【1】〔表1〕の「(参考)専門職の内訳」の欄「件数」に記載された数字 ÷ 〔表1〕の「件数」に記載された数字
【2】〔表1〕の「(参考)専門職の内訳」の欄「被害額」に記載された数字 ÷ 〔表2〕の「被害額」に記載された数字
いずれもパーセンテージの小数点以下三桁目で四捨五入しました。
平成23年 | 平成24年 | 平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | |
件数の割合【1】 | 1.93% | 2.88% | 2.11% | 2.65% | 7.10% | 5.98% |
被害額の割合【2】 | 3.89% | 6.44% | 2.00% | 9.88% | 3.70% | 3.46% |
平成29年 | 平成30年 | 令和 元年 | 令和 2年 | 令和 3年 | 令和 4年 | |
件数の割合【1】 | 3.74% | 7.20% | 15.92% | 16.21% | 5.33% | |
被害額の割合【2】 | 3.47% | 4.42% | 17.86% | 18.99% | 13.21% |
意外と専門職による被害が多そうに見えます。
しかし「専門職後見人」と「それ以外の後見人」では人数が全く異なります。
(成年後見関係事件の概況(令和2年1月から12月まで)/最高裁事務総局家庭局/最終アクセス220508)
〔表3〕の「選任された後見人等の数」を100%とし、それぞれの割合を計算しました。
小数点以下3桁目を四捨五入しています。
令和元年 | 令和2年 | |||
選任された後見人等の数 | 35,723件(100%) | 36,764件(100%) | ||
親族 | 7,782件(21.78%) | 7,242件(19.70%) | ||
親族以外 | 27,941件(78.22%) | 29,522件(80.30%) | ||
うち弁護士 | 7,768件(21.75%) |
専門職後見人 23,444件(65.63%) |
7,731件(21.03%) |
専門職後見人 24,352件(66.24%) |
司法書士 | 10,542件(29.51%) | 11,184件(30.42%) | ||
社会福祉士 | 5,134件(14.37%) | 5,437件(14.79%) | ||
市民後見人 | 296件(0.83%) | 311件(0.85%) |
後見人等の「2/3を専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士)」が勤めています。
言い換えると、専門職後見人は、それ以外の後見人の2倍いるということです。
若干荒っぽいかも知れませんが、次のように試算してみました。
専門職後見人とそれ以外の後見人が選任された数については、令和元年と令和2年しかデータがありませんが、この2年間は専門職後見人の不祥事が多かった年ですので、専門職後見人にとって都合の良いデータにはならないと思います。
また、〔表1〕の最高裁が付した注釈にも「※各年の1月から12月までの間に、家庭裁判所から不正事例に対する一連の対応を終えたものとして報告された数値であり、不正行為そのものが当該年に行われたものではない」とありますし、不祥事は選任された年ではなく、数年経過してから発生しているものも多いでしょうから、本来はこのように簡単に計算できるものではないとは思います。
令和元年
専門職後見人の不祥事の全体に占める割合:全体の15.92%
それ以外の後見人の不祥事の全体に占める割合:全体の84.08%(=100%-15.92%)
ただし、専門職後見人とそれ以外の後見人では、分母(選任される人数)が異なり、専門職後見人は、それ以外の後見人の2倍おります。
したがって、専門職後見人以外の後見人が、専門職後見人よりも不祥事を起こした割合は・・・
84.08%×2÷15.92%=10.56倍
令和2年
専門職後見人の不祥事の全体に占める割合:全体の16.21%
それ以外の後見人の不祥事の全体に占める割合:全体の83.79%(=100%-16.21%)
令和元年の計算と同様に専門職後見人は、それ以外の後見人の2倍おります。
したがって専門職後見人以外の後見人が、専門職後見人よりも不祥事を起こした割合は・・・
83.79%×2÷16.21%=10.33倍
2年度分しか見ていませんが・・・
専門職後見人が不正事例を起こす確率は、それ以外の後見人の1/10以下
ということになります。
では、ニュースでは、なぜ専門職後見人の不祥事が目立つのか?
市民の専門職への期待の大きさと、不正事例の酷さが、ニュース性(話題性)を大きくしているからだと思います。
専門職後見人の不正事例が少ない理由は大きく分けて、次の二つ、すなわち「不祥事への制裁の大きさ」と「厳しい監督をうけていること」であろうかと思います。
私たちのような専門職後見人が不祥事を起こしたときの制裁は、それ以外の後見人よりも遙かに大きいです。
➊ 全ての後見人が受けている監督
成年後見人は家庭裁判所に対する定期的な報告を通じて、家庭裁判所に監督されています。ただし、これは専門職後見人であってもそれ以外の後見人であっても同じです。
➋ 専門職後見人のうち司法書士であれば受けている指導
専門職後見人のうち、私たち司法書士が所属している「各地の司法書士会」では、毎年、不祥事を撲滅するための研修への出席が義務づけられています。
➌ 司法書士のうちリーガルサポート会員のみが受けている指導と監督
さらに、成年後見業務に取り組んでいる司法書士の一部は「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」に加盟し、家庭裁判所以上に厳しい監督を受けています。
また、リーガルサポートでも毎年、不祥事を撲滅するための研修への出席が義務づけられています。
ちなみに、ある司法書士がリーガルサポートの会員か否かは、リーガルサポート公式サイトで確認できます。
リーガルサポート会員でもある司法書士は「3つの機関による指導・監督」を受けていることになります。そして、当グループ所属司法書士は、全員が「リーガルサポート会員である司法書士」です。
少ないといっても毎年ほぼ二桁の専門職後見人による不正事例が発生しています。
市民が専門家を頼るとき「その専門家が不正事例を起こす」などとは露ほども思っていないと思います。私たち専門家は、この市民からの信頼を決して裏切ってはいけませんし、その為に有効な施策を常に検討、実行し続けなければなりません。
専門職後見人が関与した事案における「不正事例はゼロ」を目指さなければなりません。
当グループでも、グループの司法書士が不正事例を起こした場合には、莫大な違約金を支払うこととなっており、抑止力の一つとしています(もっとも不正事例を起こすような者は、はじめから参加を認めておりません。)。他にも不正事例発生を抑止する有効な施策がある場合には、前向きに導入を検討する所存です。