死後事務委任契約は、あなたに万一のことが起こった場合にそなえて、その後の手続、たとえば葬儀・納骨・埋葬、役所への届、病院代等の精算、自宅の片付けなどを第三者に依頼しておく契約です。
相続人がいらっしゃる場合にも、葬儀の方法でご遺族の合意ができないときは、感情的にこじれてしまい相続紛争の端緒となってしまうことも多いです。葬儀方法などで揉めて欲しくない場合にも死後事務委任契約は有効です。
遺言だけではダメな理由、成年後見だけではダメな理由もご説明します。
もくじ | |
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〔凡例〕引用した書籍について、本記事では、次のとおり略記しています。
人が天寿を全うすると、葬儀、役所の手続き、病院代の支払いなど様々な手続きが発生します。
普通は、これら事務手続きは家族や親族が行ってくれますが、身寄りがいない方や遠方の場合には誰もその作業をしてくれる人はいません。そんなことにならないよう、死後の様々な手続きを生前に気に入った方にお願いしておく制度が「死後事務委任契約」です。
亡くなってから葬儀方法の決定までは時間がありません。通常はその日のうちに、葬儀会社・寺などに移動してしまいます。ですから、死後事務委任契約の受任者は、それをすぐに知る必要があるのです。
特定の宗教・宗派で葬儀をして欲しい場合には、特定のお寺さんや宗派を指定しておくことが有効です。
葬儀は、ご自身で執り行なうことは出来ず、遺された方々に託さなければなりません。
ところが、遺言でこれを規定しても、葬儀方法は遺言書の法定の記載事項ではないため、効力が発生しません。遺された方々が遺言者の遺志を無視した葬儀を開催することも可能なのです。
そこで「契約」という形式にすることで、死後事務委任契約によって、あなたから葬儀方法を指定された方は、これに従うことになるのです。
次のような場合には、ご遺族の意向ではなく、あなたご自身の意向であることを明確に遺すために死後事務委任契約を作成する必要があります。
特定の宗教・宗派で葬儀をして欲しくない場合、この場合にも特定のお寺さんや宗派を指定しておくことで、結果、特定の宗教・宗派を避けることが可能です。
特定の宗教にはまっている方が、ご自身の宗教でお葬式を行ないたいと言っても、他のご家族が「死後事務委任契約書」を示して対抗することができます。
何等かの事情によって、法律上の婚姻には至っていないものの、内縁の妻(夫)に葬送を依頼したい場合、法律上の親族からの横槍が入るのを防ぎたい場合には、死後事務委任契約は有効です。
後見だけではダメな理由
法定後見人が選任されていても、任意後見人をつけていても、葬儀費用を支払うことはできません。
なぜなら、法定後見人や任意後見人は、ご本人の死亡によりその権限を喪失する(民法111条1項1号、民法653条1号)からです。
死後事務は、任意後見契約に関する法律2条1項に定める事務に含まれませんので、任意後見契約とは別に死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
遺言だけではダメな理由
葬儀や埋葬の方法の指定は、法定の遺言事項ではないため、遺言書に記載しても相続人等を法的に拘束できません。また、葬儀費用や死後の諸経費の支払いは、遺言執行者では間に合いません。 遺言執行者は、ご本人の死後、就任承諾をして初めてその業務をなしえるからです。
そこで、遺言者の希望する葬儀や埋葬を確実に実現するためには、遺言とは別に死後事務についての委任契約を結ぶ必要があります。
比較すると、次のようになります。相続人がいない場合には遺言執行者だけでなく、死後事務契約を結んでおく必要性がお分かりいただけると思います。
なお、太字が「死後事務契約受任者」しかできないことです。
行うべき事務の種類 |
次の身分で行えるか?! |
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後見人 |
死後事務契約受任者 |
遺言執行者 | |
死亡届の提出 | ○【1】 | ×【1】 | ×【1】 |
医療費の支払いに関する事務 | ○【2】 | ○【6】 | ×【9】 |
電気、ガス、水道等の公共料金の精算及び解約 | ○【2】 | ○【6】 | ×【9】 |
相続人に対する死亡の連絡 | × | ○【6】 | ○民1007Ⅱ |
家政婦・医師等に対する少額の謝礼金の支払 | × | ○【11】 | × |
家賃・地代・管理費等の支払い 敷金・保証金等の支払いに関する事務 |
○【2】 | ○【6】 | ×【9】 |
老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務 | ○【2】 | ○【6】 | ×【9】 |
ご遺体の引き取り | △【4】 | ○【6】 | × |
通夜、告別式、三回忌法要に関する事務 | ×【3】 | ○【6】 | × |
火葬、埋葬に関する事務 | △【4】 | ○【6】 | × |
納骨に関する事務 | △【4】 | ○【6】 | × |
菩提寺の選定、墓石建立に関する事務 | × | ○【6】 | × |
永代供養に関する事務 | × | ○【6】 | × |
ペットの引渡し等に関する事務 | ×【10】 | ○【6.10】 | △【10】 |
相続人がいないときの相続財産管理人の選任申立手続に関する事務 | ○ |
○【7】 |
○ |
賃借建物明渡しに関する事務 | × | ○【6.8】 | × |
行政官庁等への諸届け事務 | ○ | ○【6】 | × |
以上の各事務に関する費用の支払い | ○ | ○【6】 | ○ |
相続財産の管理 | △【5】 | × | ○民1012 |
遺言の執行に関する一切の権利 | ×【11】 | ×【11】 | ○民1012 |
遺贈の履行 | ×【11.12】 | ×【11.12】 | ○民1012Ⅱ |
特定財産承継遺言の対抗要件の具備 | ×【11】 | ×【11】 | ○民1014 |
推定相続人の廃除 | ×【11】 | ×【11】 | ○民893 |
遺言による認知 | × | × | ○戸籍64 |
【1】死亡届は①親族、②家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人、③後見人・保佐人・補助人・任意後見人・任意後見受任者がすることができます(戸籍法87)。ただし、死後事務契約受任者・遺言執行者の肩書きだけでは届け出ができません(任意後見契約を締結していれば、その発効前でも任意後見受任者の立場で届け出できます。)。
死後事務契約受任者が後見人でも遺言執行者でもない場合には、届け出ができる親族・家主等に死亡届の提出を促す必要があります(死後マニュアル101p以下参照)。
【2】民法873条の2②。ただし、その支払いを、手元で管理している現金ではなく、被後見人の預貯金の払い出しを行なったうえで行なう場合には家裁の許可が必要になります(民873の2③)。
【3】成年後見人に葬儀を施行する権限までは与えていません。葬儀には宗派、規模等によって様々な形態があり、その施行方法や費用負担等をめぐって、事後に成年後見人と相続人の間でトラブルが生ずるおそれがあるためです。したがって、成年後見人が後見事務の一環として成年被後見人の葬儀を執り行うことはできません。もっとも、成年後見人が、後見事務とは別に、個人として参加者を募り、参加者から徴収した会費を使って無宗教のお別れ会を開くことは可能と考えられます(法務省HPより抜粋)。
【4】火葬、埋葬については、家庭裁判所の許可を得たうえ後見人が行なうことができます(民873の2ただし書き、同3号)。納骨については、民法873条の2には規定がありません。しかしながら、法務省HPでは「例えば、遺骨の引取り手がいない場合には、成年後見人において遺体の火葬とともに納骨堂等への納骨に関する契約を締結することが考えられます。納骨に関する契約も『死体の火葬又は埋葬に関する契約』に準ずるものとして、家庭裁判所がその必要性等を考慮した上で、その許否を判断することになるものと考えられます」としています。
【5】相続人に引き継ぐまでが後見人の業務です。
【6】死後マニュアル85p
【7】「相続財産管理人の選任は遺言事項ではないため、死後事務委任契約で定めることが可能です。・・・もっとも、死後事務委任契約における受任者が、相続財産管理人の申立権者である『利害関係人』に該当するか否かについては、確立した見解はありません。・・・原則として、死後事務委任の受任者は利害関係人に当たると考えてよいでしょう(死後マニュアル57p以下)」
【8】借地権・借家権は相続対象なので、相続するか否かを相続人が決めなければならない。したがって、死後事務委任者が行える業務ではないのではと思えるが、死後マニュアル153p以下は、種々の前提条件があるとしながら、これを積極に解しています。
【9】民法上、相続債務(のうち可分債務)は法定相続分にしたがって当然分割され各法定相続人が負担するため、遺言執行者は債務に関する権限を一切もっていません。
【10】ペットの対処について、成年後見人には何等の権限もありませので、相続人に任せるべきです(改訂版Q&A193p)。
その他、死後マニュアル137p以下に詳述されていますので、ご参照ください。
【11】遺言事項は委任事務とすることはできません。要式性を充たさない遺言は無効だからです。ただ、過去の裁判例では、相続財産からの家政婦に対する謝礼金の支払を死後事務として認めたものがあります(最判平4.9.22金法1358.55の差戻審高松高判平5.6.8公刊物未搭載)。(死後マニュアル57p以下)。
【12】民法1012条2項は「遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる。」と規定し,特定遺贈がされた場合において,遺言執行者があるときは,遺言執行者のみが遺贈義務者となるとする判例(最二小判昭和43年5月31日民集22巻5号1137頁)を明文化した(片岡相続法211p)。
民法第873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限) |
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成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
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民法第1012条(遺言執行者の権利義務) |
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通常の委任契約では、委任者又は受任者の死亡によって委任契約が終了します(民法653)。
しかし、死後事務委任契約は委任者の死亡後の事務を委任する契約であり、委任者の死亡によって委任が終了してしまっては、委任した意味がなくなります。そこで、死後事務委任契約書では、委任者の死亡を委任契約の終了事由から除外する特約を記載する必要があります。
この特約の有効性については、判例でも、民法653条の規定は任意法規(契約によって変更できる法規)であるという立場がとられています(最高裁H4.9.22判決)。よって、委任者の死亡によって委任が終了しない死後事務委任契約も認められます。
最高裁平成4年9月22日判決(寄託金返還等請求、同付帯事件)事件番号平成4(オ)67号 | |
自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が丙山と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者丙山の死亡によつても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。
しかるに、原判決が丙山の死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら、この契約が民法653条の規定により丙山の死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるに帰し、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。 |
東京高裁平成21年12月21日判決(平21(ネ)2836号、前渡金返還請求控訴事件、判タ1328号134頁) | |
◆委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が過重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含するものであるとされた事例 ◆亡委任者が、生前、宗教法人の管理する墓地に墓を建立した際、同法人の僧侶である被控訴人に対し、自分の葬儀及び一切の供養を依頼して供養料を交付し(本件第一準委任契約)、また、自分の写真を渡して、写真を本件墓に納め永代供養して欲しいと依頼した(本件第二準委任契約)後死亡したため、亡委任者の甥で遺言により同人の葬儀及び祭祀の主催者と指定された控訴人が、主位的に、本件第一準委任契約の不能を、予備的に、本件第二準委任契約は無効な更改契約あるいは社会通念上履行不能又は解除されたと主張して、本件交付金の不当利得返還を求めたところ、原審で請求を棄却されたため、控訴した事案において、本件でも、控訴人の各主張を理由がないとして排斥し、控訴を棄却した事例 (上記要約は、WestlawJapan) |
一方、死後事務を司法書士にご依頼いただいた「あなたご自身からの解除は自由です」ので、お気に召さないときには、いつでも解除することができます。
実際の死後事務委任契約書では、次のような定め方をするのが一般的です。
第〇条(委任者の死亡による本契約の効力) | |
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死後事務委任契約 | 遺言 |
様式の定めはありません。しかし、後日内容に疑義が生じないよう誰が読んでも一義的な意味にしか取られない記載が必要です。 | 厳格な様式の定めがある。 |
私文書で作成した死後事務委任契約であっても、検認手続を経ずに直ちに事務処理を開始できます。 |
公正証書遺言の場合には、検認手続は不要。 自筆証書遺言の場合には、検認手続を要し、検認と就任承諾後でないと執行できないため時間を要する。 |
死後事務委任契約も契約ですので、口頭でも成立します。
しかし、契約の当事者である委任者の死後に受任者の権限を第三者に対して証明するためには、必ず書面で行なうべきです。
死後、もめる可能性によって、次の中からお選びいただきます。
様式 | 強度【1】 | 費用 |
公正証書【2】 | 強い | 高い |
私文書【3】に実印で押印+印鑑証明書添付+確定日付【4】 | ↑ | 安い |
私文書【3】に実印で押印+(印鑑証明書添付なし)+確定日付【4】 | ↓ | 安い |
私文書【3】に認印で押印+確定日付【4】 | 弱い | 安い |
【1】死後事務委任契約書の効力に異議を述べる方が出にくいであろうこと、又は異議を述べる方が出現した場合でも、その異議に対抗しうることを「強い」と表現しています。別に法律用語でも何でもありません。
【2】公証人が作成する文書です。
【3】一般人が作成する文書です。ワープロ・自筆を問いません。
【4】確定日付は、完成した文書を公証役場などに持参すると押印してもらえる「日付」の印鑑です。確定日付が押印されていることで、その文書が遅くとも「確定日付」の時点では成立していたことを証明することができます。死後事務委任契約書に確定日付が押されていることで、書類が後日偽造されたものではないことを証明できます。確定日付は1通につき700円です。
ご親族を亡くされた方であれば、経験がおありでしょうが、天寿を全うされてから葬儀会社の決定、病院からの搬出は、死去されたその日のうちに行なわれることが多いです。受任者が1か月に一度連絡をしていたのでは遅すぎる場合もあります。
したがって、亡くなったその日のうちに、受任者が知る必要があり、具体的には次の対応が必要です。
連絡が遅れてしまうと、ご希望どおりの葬儀方法が執り行われないことがあります。
すでに遺言を作成なさっている場合には、遺言を拝見し、遺言と死後事務委任契約の内容に矛盾が生じないようにチェックいたします。
亡くなった後、死後事務委任契約の内容と効力に一点の曇りもないように「公正証書」で作成することをオススメしています。
死後事務は将来効力が発生するまで、その手間と費用がどの程度か予測が困難です。
したがって、報酬と実費は余裕をもってお預りさせていただきます。
事務費用の預り金は、ご依頼者様ごとに一人ずつ別々の専用口座でお預かりいたします。
死後事務委任契約書の中で特定の報告者が定められている場合には、その方に報告を行ないます。
預り金から報酬と実費の精算をし、剰余金は相続人へお引き渡しします。
相続人がいらっしゃらない場合には、相続財産管理人の選任を申し立て引き継ぐこともございます。
業務内容 | 所要時間 |
死後事務委任契約の作成 | 1か月ほど |
死後事務委任契約の執行 | お任せいただいた事務の範囲によります。 |
業務内容 | 司法書士の報酬 | 費用 |
死後事務委任契約・作成 | 5.5万円 | 公証人1.5万円【1】+交通費・郵送費 |
【1】公証人報酬(死後事務委任契約)の算出方法
死後事務受任者の報酬が有償か無償かに関わらず、 目的価格を500万円とみなし、手数料額は11,000円となる。正本・謄本代として4,000円程度かかります。
業務内容 | 司法書士の報酬 | 費用 |
死後事務委任契約・保管 | 6,600円/年【2】 | 銀行貸金庫手数料は司法書士報酬に含まれます。 |
【2】遺言書や死後事務委任契約書の原本は、銀行貸金庫にて保管させていただきます。貸金庫使用料をご依頼者様皆さまで負担いただくとお一人あたり月額550円×12月=6,600円/年程度が適切と考えております。
業務内容 | 司法書士の報酬 | 費用 |
役所への各種届出 | 11万円(税込) | |
葬儀・火葬に関する手続 | 11万円(税込)~ | 葬儀の規模やどなたにお声をかけるのか等あらかじめ打合せをお願いします。 |
関係者への死亡通知(関係者からの連絡への対応を含む) | 0.5万円(税込)/人につき | |
埋葬に関する手続 | 11万円(税込) | |
病院・施設の退院・退所手続 | 11万円(税込) | |
勤務先への退職手続 | 11万円(税込) | |
住居内の片付け(業者の選定と現場作業の監督) | 11万円(税込)/半日につき | 片付けを要する物の量に寄ります。相見積もりを取得のうえ依頼します。 |
賃貸不動産の解約・明渡手続 | 22万円(税込) | |
各種契約の解約・精算 | 5.5万円(税込)/契約につき | |
住民税・固定資産税等の納税 | 2.2万円(税込)/件につき | |
SNS等のアカウントの削除 | 2.2万円(税込)/件につき | |
その他の死後事務 | ご相談ください【3】 |
【3】死後事務の内容と量によりご相談させていただきます。