遺留分放棄を家裁が許可した場合、放棄者はご自身に不利益な遺言があっても遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をすることが出来なくなります。
被相続人の立場からすると、相続人が遺留分放棄をした場合、遺言で遺留分放棄者の相続分をゼロにしても、放棄者は争う方法が限定されますので、自由に遺言を書くことが可能になります。
遺留分の放棄は、相続人・被相続人にとって強力な手続きであるため、家庭裁判所に許可をもらわなければできません。
遺留分が何か分からない方は、コチラをご覧ください。
もくじ | |
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被相続人がお亡くなりになった後の遺留分放棄は、家裁の許可を得ずに自由に可能です(最高裁S41.6.16判決)。
被相続人死亡後であれば、遺留分放棄の圧力を受けにくいであろうという理由です。
家庭裁判所に申立をして、許可を得る必要があります。
また、放棄できる遺留分権は、次のうちのいずれかです。
⑴包括的な遺留分権の全部
⑵包括的な遺留分権の一部
⑶特定の処分行為に対する特定の減殺請求権
(高木多喜男・新版注釈民法(28)500頁、中川編・注釈下278〔山中〕、中川監修・注釈474〔島津〕、岡垣学・相続関係〔家事審判法講座Ⅱ〕〔昭40〕266頁)
民法第1049条(遺留分の放棄) | |
1 | 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。 |
2 | 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。 |
表でまとめると次のとおりです。
遺留分放棄 | 相続放棄 | 相続分放棄 | |
被相続人の生前 | 家裁の許可が必要 | できない | |
被相続人の死後 | 自由にできる | 死後3か月以内に家裁に申立 | 自由にできる |
効果 |
相続人のまま |
相続人でなくなる | 相続人のまま |
分割協議に参加可能 |
分割協議に参加できない | 分割協議に参加できない | |
借金を相続しうる | 借金も相続しない | 借金も相続しうる | |
他の相続人の遺留分に影響なし | 他の相続人の相続分が増える。 | 他の相続人の相続分が増える。 |
被相続人や他の相続人などから強要されたものではなく、申立人自身の真意で放棄する必要があります。
却下された事例(東京家裁昭和35年10月 4日審判) | |
妻が被相続人夫に対する遺留分放棄を求めているが、これは被相続人の発意に出たものであり、殊に配偶者相続権の確立の理念に反するところがあるとして却下した。 |
却下された事例(和歌山家裁昭和60年11月14日審判) | |
自己の結婚について父母の了解を得たいとの一心から遺留分放棄の許可申立てをした事案につき、申立人の全くの自由意思によつて申立てがされたものであるか疑問があるとして、申立てを却下した事例(要旨はWestlawJapanによる) |
合理的な理由、必要な理由が説明できなければなりません。
却下された事例(大阪家裁昭和46年7月31日審判) | |
申立人がある女性と結婚することに反対している申立人の両親が、同女と結婚するならば、自分たちの財産は渡せないから遺留分放棄をせよと申立人に迫ったことによりなされた遺留分放棄の許可申立は、両親からの結婚問題に関するかなり強度の干渉の結果と言わざるを得ないから、本件申立は憲法24条1項の趣旨に照らしこれを許可するに足る合理的理由がないとして却下した。 |
遺留分を放棄するに見合う相応の代償を貰っていれば、放棄理由の合理性を補強する材料となります。
却下された事例(神戸家裁昭和40年10月26日審判) | |
5年後に300万円の贈与を受ける契約のもとになされた遺留分放棄の許可申立は、将来その契約が履行されないおそれがある等、申立人に生ずるかもしれない損害を考慮して却下した |
合理的代償利益の存在を必ずしも必要としないとした事例(東京高裁平成15年7月2日決定) | |
両親の離婚後交流のなかった父を被相続人とする相続につき遺留分を放棄することの許可を求めた申立てを、申立人が遺留分放棄を相当とする合理的代償を受けていないことを理由に却下した原審判に対する即時抗告審において、本件申立ては、申立人の真意に出たものであると認められ、また、本件遺留分の放棄を許可することによって法定相続分制度の趣旨に反する不相当な結果をもたらす特段の事情も存在せず、かえって、申立人と父とは、父子としての交流がないことから互いに他方の相続について遺留分を放棄することとしたものである上、申立人が父に係る相続の遺留分を放棄することが、申立人の母と父との間の株式等の帰属の問題について調停による迅速な解決を導く一因となったのであるから、実質的な利益の観点からみても、申立人の遺留分放棄は不合理なものとはいえないとして、原審判を取り消し、申立てを許可した事例(要旨はWestlawJapanによる) |
認可された割合(申立が認められた割合)は90%以上をずっとキープしています。
もっとも、司法書士・弁護士が関与した案件では、認可の見込みなしとして申し立てされなかったものもあると思います。
申立前にその可否がほとんど明らかになる事件類型です。
新受件数 【1】 |
既済【1】 | |||||
総数 | 認可【2】 | 却下 | 取下げ | その他 | ||
平成27年度 | 1,176 | 1,152 |
1,076 (93.40%) |
13 | 50 | 13 |
平成28年度 | 1,180 | 1,206 |
1,119 (92.78%) |
12 | 63 | 12 |
平成29年度 | 1,015 | 999 |
931 (93.19%) |
17 | 41 |
10 |
平成30年度 |
950 | 968 |
890 (91.94%) |
6 | 64 | 8 |
令和元年度 | 911 | 930 |
877 (94.30%) |
8 | 35 | 10 |
(参照:平成27年~令和元年・司法統計・家事事件編)
【1】新受件数と既済総数とは一致しない。既済数には、前年新受され翌年既済となるものなどがあるからです。
【2】下段の%は、申立が通った割合、すなわち、認可された割合(=認可数/既済総数)である。
被相続人の住所地を管轄する裁判所に、司法書士から提出いたします。
裁判所によって運用に違いがありますが、申立書提出から1~2週間程度で裁判所から申立人ご本人宛に照会書が送付されます。照会書では放棄が真意か、動機、撤回可能性有無、生前贈与等の有無などが聞かれています。
照会書は意味を正確に理解し、回答して返送します。
当グループにご依頼いただいた場合には、照会内容の意味をお伝えし、不正確な回答をなさらないようにフォローさせていただきます。
裁判官による面接(審尋)が行われることもあります。
照会書は被相続人に対しても、送付されることもあります。
申立人又は利害関係人は即時抗告をなしうるとする説(山木戸克己・家事審判法〔昭33〕81頁、岡垣学・相続関係〔家事審判法講座Ⅱ〕〔昭40〕268頁)。
不可とする説もある模様。
遺言書がない場合には、遺産分割協議が必要になり、遺留分放棄者もそうでない相続人同様の法定相続分を有します。
(遺言を確認した結果、遺留分が本当に確保されていないのに、相続負債がある場合など)状況必要に応じて相続放棄をしておきましょう。
被相続人の死後に、相続人が行なうことができる「相続放棄」とは異なり、「遺留分放棄」を行っても相続人であることには変わりがありません。
そこで、以下のような注意点が出てきます。
遺留分放棄した方も、相続権を失ったわけではありませんので、遺言がなければ遺産分割協議をする必要が生じます。この遺産分割協議に対しては、遺留分を放棄したことは一切関係ありません。また、遺言を作成してもその遺言が無効になったときも同様です。
被相続人が遺言をしっかり作成しておく必要があります。
遺留分放棄した方も、相続権を失ったわけではありませんので、相続放棄をしなければ相続債務のみを相続してしまう(借金は、遺産分割協議を経ず法定相続分で当然相続する。遺言があっても債権者の承諾を要する。)ことになります。
遺留分放棄をした方は、被相続人の死後、財産や負債を確認して必要に応じて相続放棄も行ないましょう。
遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分に影響はありません(他の相続人の遺留分が増えることはありません。民法1049Ⅱ)。
これは遺留分の放棄が、被相続人の生前行われた場合も死後に行われた場合も同じです。
遺留分放棄者が相続放棄した場合、次順位相続人が相続する権利は?!
<親>❹相続する権利は「遺留分のない相続権」か「遺留分のある相続権」か │ <被相続人>❷死亡 │ <子>❶遺留分放棄、❸相続放棄 |
引き継がれないとする説(東京地裁S34.5.27判決)
1.被相続人の子が遺留分放棄
2.被相続人が遺言で第三者たる被告へ包括遺贈
3.被相続人が死亡
4.被相続人の子が相続放棄、被相続人の孫が相続人となった(S37法40改正前の事案。現行法では子が相続放棄すれば孫は相続人とならない。)
上記事実関係において、先順位者たる子がした遺留分放棄の効果は、自順位者である孫に引き継がれないとした。
引き継がれないとするする説
権利ないし利益の放棄によって、第三者の権利ないし利益までも喪失せしめるということは、一般論としては認められないのは当然である。もっとも、いったん被相続人の得た自由分の拡大という利益が喪失することになるが、遺留分放棄の反射的利益であるからやむをえないであろう(高木多喜男・遺留分〔総判民23〕〔昭39〕32頁、岡垣学・相続関係〔家事審判法講座Ⅱ〕〔昭40〕269頁)。
遺留分放棄者が被相続人よりも先に死亡したことによって代襲相続が開始した場合
<被相続人>❸死亡 │ <子>❶遺留分放棄、❷死亡 │ <孫>❹代襲相続する権利は「遺留分のない相続権」か「遺留分のある相続権」か |
引き継がれるとする説
代襲者は、非代襲者が生存しておれば取得するであろう相続権以上の権利を取得するはずはなく、しかも、代襲する相続権は遺留分権の欠けたものなのであるから、代襲者の相続権も、遺留分権の付着していないものとして解するのが、正当であろう(高木多喜男・新版注釈民法(28)増補版536p、高木多喜男・遺留分〔総判民23〕〔昭39〕32頁、岡垣学・相続関係〔家事審判法講座Ⅱ〕〔昭40〕269頁)。
引き継がれないとする説
申立人につき代襲原因が生じれば、この効果が代襲相続人について維持されるべきかも難問である。相続放棄に準じると考えることもできるが、被代襲者に欠格事由があっても、その子が代襲することを許す規定の論理からは、遺留分放棄の効果は代襲者に及ばないと言うべきかもしれない(伊藤昌司・ジュリ別冊 132号246頁〔家族法判例百選 第5版〕)。
司法書士の報酬 | 費用 | |
遺留分放棄許可申立書作成 | 110,000円(税込)~【1】 |
収入印紙800円 切手若干 |
【1】被相続人の遺産目録を作成する必要があるため、遺産内容によって加算をお願いします。